フランス・リヨンで開催される「ボキューズ・ドール国際料理コンクール2025 フランス本選」が、いよいよ目前に迫ってきた。日本代表の貝沼竜弥(かいぬま りゅうや)とコミ・ド・キュイジーヌ(以下・コミ)の藤田美波(ふじた みなみ)は、1月上旬から現地入りし、最終調整を行っている。今回は、昨年末に行われた試食会の様子をお届けするとともに、チームJAPANでテクニカルディレクターを務める「HAJIME」のオーナーシェフ米田肇(よねだ はじめ)氏に、改めてボキューズ・ドールとはどんな大会なのか、そしてフランス本選はどのような戦いになるのかを伺った。
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年の瀬が迫るなか行われた試食会の会場は、緊張感に包まれていた。「ボキューズ・ドール国際料理コンクール 2025 フランス本選」まで残り1ヶ月を切り、チームJAPANのメンバーが集まり、勝つための戦略を練る時間は、わずかしか残されていないからだ。
2023年12月に貝沼が日本代表に選出されてから約1年間、チームJAPANはフランス本選で上位を狙うために準備を進めてきた。週に1度行われる試食会では、これまで日本代表を務めたシェフをはじめ、チームJAPANのメンバーが貝沼の料理を試食し、より完成度を高めるためにどうすべきか議論を重ねた。それを受けて貝沼は、試行錯誤しながら試作を繰り返してきた。1つ1つ積み重ね、時にはゼロから考え直しながら料理の完成度を高めていく長い戦いは、いよいよ大詰めを迎えたのだ。
フランス本選では5時間30分の制限時間内で、プラッター(大皿料理)とプレート(皿盛料理)を作り、盛り付けまで行う必要がある。現地に入ったら本番を想定したキッチンで、制限時間内に仕上げるためのシミュレーションを中心に行うため、レシピを練り直す時間はほぼないと考えたほうが良い。しかも、慣れない環境で予期せぬトラブルが起こることも想定される。この日の試食会では、あらゆる可能性を検討しながら、レシピを固めていくための議論が、長時間にわたり繰り広げられた。
今期からボキューズ・ドールJAPANの理事に就任した「HAJIME」オーナーシェフの米田肇氏は、前回大会(第19回)で試食審査員を務めた。ボキューズ・ドールでは、毎回課題食材が決められ、その調理法やプレゼンテーションについても細かなルールが設定される。今回のフランス本選では、プラッター(大皿料理)の課題食材には鹿肉、フォアグラ、お茶、プレート(皿盛料理)にはセロリ、ロブスター、ストーンバス(ニベ)を使うことが求められている。以前貝沼は“フランス料理の伝統をベースに戦うことになる”と話していたが、米田氏は今回のテーマをどう捉えているのだろうか。
「今回は伝統的なフランス料理が求められていることは確かです。ここ数年は革新性が重視されていたため、こんなに変わるんだ、と驚きました。上位常連国が多用していたビーツの使用が禁止される動きもあり、どのような戦いになるかは正直読めないですね」。
「ボキューズ・ドールで戦うためには、技術だけでなく精神力も重要になってきます。料理をつくる時、焦ってしまうとどんなに熟練の料理人でも判断を誤ることがあります。気持ちが焦った時こそグッと踏みとどまって、周りを冷静に見てきっちり仕事をする。いかなる環境でも自分を律して良いものを提供できるかどうかも問われます」。
米田氏に、改めてボキューズ・ドールとはどのような大会なのか伺った。
「フランスで開かれる本選に初めて足を運んだのは、高山英紀シェフが日本代表として出場した第17回大会です。想像以上に大きな大会で驚いたのを覚えています。前回大会で試食審査をした時に感じたのは、上位国の料理は、三つ星クラスのかなり高いレベルであること。味付けのバランスはもちろん、温度管理も徹底されています。こういったコンクールでは、調理・盛り付けが完了したら、まず審査員にプレゼンテーションを行うため、審査員の口に入るまである程度時間がかかるのですが、それでも温かい料理はしっかり温かいと感じられるように細部まで計算されています。さらに、キッチンの設備や食材の使い方、チーム内のコミュニケーションの取り方まで、すべて一流である国が評価されています。ボキューズ・ドールは、自国の最先端のガストロノミーをプレゼンテーションする場なのです」。
日本は、2013年に浜田統之氏(現・「星のや」ブランド総料理長)が世界第3位を獲得して以来、ここ数年はなかなか上位に食い込むことができず苦戦している。一般的に日本の食文化は海外から高い評価を得ており、苦労なく上位を狙えそうに思ってしまうが、高いレベルで戦うには、資金と戦略が必要だと米田氏は語る。
「フランス本選の会場はたくさんの観客で溢れかえり、各国の応援団の大歓声が鳴り止まない、まさにオリンピック会場のような雰囲気です。ボキューズ・ドールは、自国の食文化を世界にアピールできる格好の舞台なんです。ヨーロッパの強豪国は、そこを理解して国を挙げて取り組んでいます。日本ではまだまだ認知度が低く、国からのサポートやスポンサーが付きにくいのが現状です。日本はこれから観光産業が非常に重要になり、日本の食文化を広く発信することで、経済効果を生み出せると考えています。今期からチームJAPANに参加し、体制づくりや情報共有の在り方など、1つ1つ見直してきましたが、今後も勝つための環境づくりに取り組んでいきたいと思います」。
最後に、フランス本選で戦う貝沼にメッセージをもらった。
「この1年間、貝沼シェフが料理人としてどう成長するか向き合ってきました。私は、料理には食べた人を感動させることができる魔法のような力があると思っています。料理人は、本気になって目の前の人を感動させようと思った時に初めて料理に魂を込めることができます。川のものや海のもの、大地のもの、あらゆる素材をお皿に乗せて調和を取るのは並大抵のことではありません。“自分自身が本当にそれをやり遂げるんだ”、という思いを強く強く持ってほしい。本番になったら大会で賞を取るということはいったん置いておいて、目の前の審査員を感動させて泣かせてやる、そんな思いを持って臨んでほしいですね」。
ボキューズ・ドール国際料理コンクール フランス本選は1月26日、27日の2日間、フランス・リヨンにある「シラ外食産業見本市」特設会場で開催される。時間をずらして各国が調理を開始し、日本は2日目の2番目(現地時間 午前8時/日本時間 同日16時)にスタートとなる。大会の様子はウェブでライブ配信される。貝沼、そしてチームJAPANに熱い声援を送りたい。
ライブ配信はこちらからご覧いただけます。