vol.02 一貫したコンセプトでチームJAPANの想いを繋ぎ
本選に向けた熱量をさらに高めていく
2024.12.06

BOCUSE D’OR 2025

9月下旬にアジア・パシフィック大会の選考結果が発表され、日本は見事1位通過を果たした。フランス・リヨンで開催される「ボキューズ・ドール国際料理コンクール2025」が来年1月に迫るなか、日本代表の貝沼竜弥(かいぬま りゅうや)率いるチームJAPANは、試作を繰り返す日々を送っている。
今回は、チームJAPANでコンセプト開発及びフランス本選で使用するプラッター(大皿)のデザインを担当している株式会社カナリア(以下・カナリア)の徳田祐司(とくだ ゆうじ)氏のオフィスで、アジア・パシフィック大会を振り返るとともに、フランス本選に向けて準備を進めるチームJAPANの現状を伺った。

ギリギリまで粘り、精度を高めて臨んだ
アジア・パシフィック大会

今回のアジア・パシフィック大会の課題食材は仔羊肉。“サドル”と呼ばれる背中にあたる部位をメインに、3種類の付け合わせをテーマに沿ってつくることが求められた。もともと中国・深圳で大会が開かれる予定だったが急遽中止が決まり、コロナ禍により中止を余儀なくされた前回大会(第19回)と同様にレシピと料理写真、チーム紹介動画のみで審査されることに。
「試食がなかったので、見た目の美しさはもちろん、レシピをできるだけ細かく書いて、味わいが伝わるように細部まで気を配りました。早めに提出することも考えましたが、締め切りギリギリまで粘り、より高いクオリティを追求したことが結果に繋がったと思います」と貝沼は振り返る。


チームJAPANの紹介動画には、料理を通じて自然の営みと人間の営みが繋がり、調和することを目指す貝沼の想いが込められている。動画の冒頭に出てくるのが、今回のチームJAPANのコンセプト「万華鏡」だ。コンセプト開発を担当したのは、カナリアの徳田祐司氏。
「複数のエレメントが繋がり、互いに影響し合って美しい形を成す万華鏡は、貝沼さんの料理にかける思いを視覚的に表現しています。動画の最後にはチームJAPANのメンバーもずらりと登場し、チームとしての体制を整えて臨む姿勢をしっかりアピールしました」。



貝沼が料理に込める想いから生まれた「万華鏡」のコンセプト

徳田氏は、数多くのブランディングやデザインプロジェクトに携わるクリエイティブディレクター・アートディレクターで、デザインの視点を軸にコンセプト開発からコミュニケーションプランまでを一貫して行っている。今回チームJAPANのメンバーとして、本選で使用するプラッター(大皿)のデザインだけでなく、全体のコンセプトを視覚化する役割を担う。
チームJAPANにはテクニカルディレクターを務める「HAJIME」のオーナーシェフ米田肇氏や歴代の日本代表など、名だたるシェフたちが参加しているが、料理人とは異なる視点の徳田氏のサポートは、チームJAPANにとっても貴重な存在だ。

「チームJAPANに参加することが決まって間もない頃、貝沼シェフが料理を通じて表現しようとしている“Natural & Connect”というキーワードを伺いましたが、その考え方は料理だけでなく、仕事や生活などあらゆることに当てはまると感じました。そこから過去大会の映像や写真を集めて参加国のプラッターをひたすら研究し、コンセプトをどう視覚化するかを詰めていきました」。
チームJAPANに参加して半年以上経ち、徳田氏がまとめているボキューズ・ドールに関する資料も膨大になってきたという。
「フランス料理の枠組みの中でどのように進化し続けていくのか、ポール・ボキューズ氏のイノベーティブなマインドが継承されている大会だと思います。料理界のF1といったところでしょうか。この大会で生まれた料理の最先端が世界中に広まって、大きな潮流を生み出していくのですから、参加するシェフ達はすごい経験を得られると思います」と徳田氏は語る。

料理を主役として引き立てる存在でありながら
コンセプトを体現するプラッターの開発

「万華鏡」のコンセプトは、フランス本選で使用するプラッターにも落とし込まれている。
「チームJAPANが目指すのは、構成する料理の調和が取れていて、プラッターが1つの世界として表現されている状態です。ただし、私が担当するのはあくまでお皿。料理が主役であり、美味しそうに見えることがもっとも重要です。料理とのバランスは貝沼シェフと何度もやり取りしてコツを掴んでいきました。実は、プラッターの制作において一番難しかったポイントでもあります」と徳田氏は話す。

「料理はどんな形状で、どのように温度管理しなければならないかなど、料理のプランが固まらないうちから必要な情報を抜き出して設計に入らなければなりません。さらに、どのように盛り付けて、どのように提供するかといったフローも考慮する必要があります。貝沼シェフに細かいところまでヒアリングして、微調整を繰り返し、ようやく完成が見えてきました」。

フランス本選の課題食材が発表され、
チームJAPANの熱気はより高まっていく

先日、フランス本選のプラッターのテーマ食材は“鹿肉”と発表された。ポール・ボキューズ氏はかつて狩猟も行っていた料理人であり、自ら獲ったジビエをお客様に提供していたことに因み、フランス料理の王道が求められるテーマになっているという。
「ここ最近はフランス料理に革新をもたらすような自由な発想が問われる傾向にありましたが、今回は一転してフランス料理の伝統をベースに戦うことになりそうです。考え方がガラリと変わったので、戦略を練り直しているところです」と貝沼はチームJAPANの現状を語ってくれた。

試食会に参加している徳田氏も、本選に向けてチームJAPANの熱気が高まっているのを実感しているという。
「みんな本気で上位を狙っていますから、常に心地よい緊張感が漂っています。フランス料理のトップシェフ達が集まったチーム総力戦の中で、貝沼シェフには力を出し切ってもらえたらと思っています」。

貝沼もフランス本選に向けて、改めて気持ちを引き締めているようだ。
「不安になることもありますが、たくさんの方に支えていただいているおかげで頑張れています。みなさんの力をお借りして、自分自身ももっと成長して本番を迎えたいです。そこに結果が伴ってきたら嬉しいですね」。

年が明ければ貝沼はフランス・リヨンに向かい、現地での最終準備が始まる。日本で試作できる時間が限られるなか、チーム一体となった挑戦は続いていく。