vol.01 ともに高みを目指す「チームJAPAN」で
アジア・パシフィック大会に挑む
2024.08.29

BOCUSE D’OR 2025

「ボキューズ・ドール国際料理コンクール2025」の日本代表として、丸の内「サンス・エ・サヴール」で副料理長を務める貝沼竜弥(かいぬま りゅうや)が選出された。ともに戦うコミ・ド・キュイジーヌ(以下・コミ)に選ばれたのは、同じく「サンス・エ・サヴール」でパティシエとして働く藤田美波(ふじた みなみ)。コーチとしてサポートするのは、「ザ・ペニンシュラ東京」のシニアシェフであるヨハン・ダコスタ氏だ。現在アジア・パシフィック大会に向けて試作などトレーニングに励むチームJAPANに、その意気込みを伺った。

世界最高峰の料理コンクール「ボキューズ・ドール」とは?

©White_Mirror

「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」は、“現代フランス料理の父”と称されるポール・ボキューズ氏によって1987年に創設された、国際的な料理コンクールだ。アジア・パシフィック、ヨーロッパ、アメリカ、アフリカの各大陸大会予選を勝ち抜いた24カ国が、2年に1度フランスで開催される本選で戦う。「美食のワールドカップ」とも言われる本コンクールは、約2,000人の観客による大声援の中、2日間にわたり開催され、代表シェフ率いる各国のチームは、5時間半という制限時間の中で、課題食材を使い、与えられたテーマに沿って料理を仕上げていく。

審査員にはミシュランガイド掲載やM.O.F.(国家最優秀職人賞)受章などの経歴を持つ一流のシェフ達が揃い、料理の味や温度、見た目の美しさはもちろん、調理中の衛生状態や、食材を無駄なく使っているか、チーム内のコミュニケーションが円滑かどうかまで厳しくチェックする。
2023年に開催された前回大会(第19回)は、銀座「アルジェント※」副料理長・石井友之が出場し、24カ国中12位の成績を収めた。(※2024年3月に閉店)
前回大会(第19回)のレポートはこちら

次回大会(第20回)の日本代表は
「サンス・エ・サヴール」副料理長・貝沼竜弥

2023年11月に開催された国内予選を制した貝沼は、前回大会の国内予選で石井のアシスタントを務めたことをきっかけにボキューズ・ドールを本格的に目指しはじめ、初めてのチャレンジで日本代表の座を掴んだ若き実力派シェフだ。

地元新潟の調理師専門学校を卒業し、ひらまつで料理人としての道を歩み始めた貝沼は、最初はイタリア料理店を志望していたが、入社後「サンス・エ・サヴール」での研修をきっかけに、フランス料理の料理人を志すようになったという。
「実は研修の時にすごく怒られたんです。それが悔しくて悔しくて、こんなに怒られるのには理由があると思い、それが知りたくなったんです」。
苦しい状況に負けない強い精神力が、貝沼を大きく成長させたのだろう。「サンス・エ・サヴール」で働きはじめて今年で11年目を迎え、今は料理長の右腕として活躍している。

過去の知識と経験を活かし、チームJAPANとして戦いに挑む

貝沼は現在「サンス・エ・サヴール」で勤務しながら、日本代表としての練習を週3日集中して行っている。
「 “美味しい料理を作る”というマインドは普段の仕事と変わらないのですが、大会では世界の名だたるシェフたちが試食されることを意識して、試作を繰り返しています。見た目の完成度をより高く、味の階層もさらに複雑に仕上げなければなりません」。

ボキューズ・ドールは、国単位のチーム戦で行われる。実際キッチンに入るのは、代表シェフとコミ、当日割り当てられる地元の料理学校の学生アシスタントの3名だが、過去の大会出場経験者や名だたるシェフ達も加わった「チームJAPAN」として、本選を勝ち抜くための戦略を積み上げていく。
「前回大会の日本代表である石井シェフが頻繁に練習に参加してくださって、どう戦うべきか一緒に考えてくれています。経験を元にアドバイスをくださるのはすごく心強いです」。

絶対の信頼を置くコミと
経験豊富なコーチが貝沼を支える

コミはひらまつでの社内公募に加えて辻調理師専門学校フランス校卒業生からの公募も併せて実施し、厳しい審査のもと選出された。最終審査を勝ち抜いたのは、貝沼と同じ「サンス・エ・サヴール」でパティシエとして働く藤田美波だ。
「実際調理のサポートに入ると知らないことも多く、自分で調べたり、上司に聞いたりしながら試行錯誤しています。貝沼さんはリーダーとしてポジティブな姿勢で引っ張ってくれます。大会までにできることはまだたくさんあります。トレーニングを積んでしっかりサポートしていきたいです」と意気込みを語ってくれた。

アジア・パシフィック大会のコーチを担うのは、「ザ・ペニンシュラ東京」のシニアシェフであるヨハン・ダコスタ氏だ。
「貝沼さんのアイデアを聞いて、どういう風に形にすれば良いか、チームで話し合いながら試作を進めています。一番大事なのは後悔しないこと。100%の力をぶつけて大会に臨んでほしいですね」。

強豪国が国をあげて強固なチーム構築や研究・分析を行って本選への準備を進める中、日本も貝沼が最大限の力を発揮するための強力なサポートが欠かせない。
2013年大会において日本代表歴代の最高位の3位入賞を果たした「星のや東京」料理長の浜田統之氏を筆頭にこれまでの日本代表を務めたシェフたちによるサポートはもちろん、前回大会(第19回)で試食審査員を務めた「HAJIME」のオーナーシェフ米田肇氏が今期よりボキューズ・ドールJAPAN理事として就任し、アジア・パシフィック大会に向けたメニュー考案や調理指導にも積極的に力を注いでいる。たくさんの人の協力を得ながらチームとしての力を高め続け、本選までの長い戦いに挑むのだ。

先日、突如として中国・深圳で予定していたアジア・パシフィック大会開催中止の連絡が入った。改めて審査の方法はレシピと料理写真、チーム紹介動画などの提出で行われることが発表され、今は出品する料理の完成度をいかに極限まで高められるかに集中している。
「アジア・パシフィック大会開催中止=試食審査がないということなので、提出するレシピや料理写真だけでいかに味わいまでを表現して伝えきれるかがポイントになると思います。無事に提出を終えたら、フランス本選に向けた準備に一日も早くシフトしたいと思っています」と貝沼は自信をのぞかせた。